小川平吉(射山) 七言絶句
おがわ・へいきち(しゃさん)
1869-1942。田中義一内閣鉄道相等。
[解読]
功名一擲付雲煙(韻)
霽月江風別有天(韻)
記得古人高踏語
英雄回首即神仙(韻)
(七言絶句。平声先韻)
戊寅夏日 射山
[訓読]
功名は一擲して雲煙に付す
霽月・江風、別に天有り
記し得たり古人高踏の語
英雄首を回らせば即ち神仙
戊寅夏日 射山
[語釈]
一擲
思い切って投げ捨てること。
雲煙
雲や霞がたちまち消え去るように、ものごとに執着しないたとえ。
霽月
雨上がりのきれいな月。
江風
川の上を吹き渡る風。
高踏の語
俗世間から超越した言葉。ここでは、結句で引用した黄天谷の詩句のこと。
首を回らす
振り返って見ることだが、ここでは英雄の事業から神仙の修行へと志を変えること。
戊寅
「つちのえ・とら」の年。昭和13年。
射山
仙人が住むという伝説の山、藐姑射山(はこやさん)にちなむ作者の雅号。「やさん」と読むべきかもしれない。
[訳]
功名心は捨て去って、雲や霞が消え去るように執着がなくなった。
雨上がりの月を仰ぎ、川の上を吹き渡る風に身をゆだねていると、俗世間とはまた別の天地があることを感じる。
昔の人が言った俗世間から超越した言葉は、よく覚えている。
「英雄の資質を持った人は、ひとたび志を改めれば神仙になる」というのだ。
昭和13年夏 射山
[出典]
結句の「英雄回首即神仙」は宋の黄天谷の『絶句』からの引用。
2009年12月6日公開。