中井弘(桜洲) 七言絶句
なかい・ひろし(おうしゅう)
1838-1894。薩摩藩を脱藩し、維新前に英国に留学。貴族院議員。京都府知事等。
[解読]
艶説婀娜虎御前(韻)
繁華遺跡在河辺(韻)
松青沙白湘南路
潮去潮来八百年(韻)
(七言絶句。平声先韻)
大磯客舎賦示春畝山人
桜洲山人
[訓読]
艶説婀娜たり虎御前
繁華の遺跡は河辺に在り
松青く沙白し湘南の路
潮去り潮来る八百年
大磯客舎の賦 春畝山人に示す 桜洲山人
[語釈]
艶説
妖艶な伝説。
婀娜
女性のなまめかしさ。
虎御前
『曽我物語』に出てくる曽我兄弟の兄、曽我祐成(そが・すけなり)の妻となった女性で、大磯(神奈川県中郡大磯町)の遊女であった。
繁華
若くきれいな年頃。
遺跡
虎御前が遊女として曽我祐成と出会った遊女宿の跡。
湘南
神奈川県(相模国)の南海岸地域。
八百年
曽我兄弟の仇討事件は建久4年(1193年)のことなので、約八百年がたっている。
大磯客舎
大磯町の旅館。
賦
感興の詩。
春畝山人
春畝とは伊藤博文の雅号。山人は雅号の後につける辞。
[訳]
妖艶な伝説を残す美女・虎御前の出身地はこの大磯で、
彼女が居たという遊女宿の跡は川のそばにある。
松は青く、砂浜は白いこの湘南の海岸では、
そのころからもう八百年も潮の満ち干が続いているのだ。
大磯旅館の詩。春畝山人(伊藤博文)に示す。
桜洲山人
2009年3月28日公開。2009年6月17日一部修正。