日本漢文の世界

 

英傑の遺墨が語る日本の近代



長岡半太郎(楽水) 七言絶句(宋詩)
ながおか・はんたろう(らくすい)


1865-1950。著名な物理学者。文化勲章受章。

長岡半太郎 七言絶句 日本漢文の世界 kambun.jp

[解読]

人家星散水中央(韻)
十里芹羹菰飯香(韻)
想得薫風端午後
荷花世界柳糸郷(韻)
(七言絶句。平声陽韻。)
 己卯春日 楽水

[訓読]

人家(じんか)星散(せいさん)(みず)中央(ちゅうおう)
十里(じゅうり)芹羹(きんこう)菰飯(こはん)(かんば)
(おも)()たり薫風(くんぷう)端午(たんご)(のち)
荷花(かか)世界(せかい)柳糸(りゅうし)(きょう)
   己卯(きぼう)春日(しゅんじつ) 楽水(らくすい)

[語釈]

星散(せいさん)
 星を散らすように散らばっていること。

十里(じゅうり)
 中国の一里は三百六十歩で、約500メートルに相当します。「十里」とはここでは約5キロの範囲いたるところという意。

芹羹(きんこう)
 芹(せり)を肉とともに煮込んだスープ。

菰飯(こはん)
 まこもの実で炊いた飯。

薫風(くんぷう)
 おだやかな初夏の風。

端午(たんご)
 五月五日。

荷花(かか)
 はすの花。

柳糸(りゅうし)
 柳の枝のこと。糸のように細いことから。

己卯(きぼう)
 「つちのと・う」の年。昭和14年(1939年)

[訳]

人家は水郷の中央に星のように散らばっている。
あたり一面に芹のスープやまこも飯の香ばしいにおいがたちこめている。
五月の節句の後、薫風が吹く頃になると、
蓮の花の世界、柳の里の風景は、想像以上にすばらしい。
   昭和14年春 楽水

[出典]

宋代の詩人・楊万里の『過臨平蓮蕩』詩

2009年9月6日公開。

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