日本漢文の世界

 

英傑の遺墨が語る日本の近代



森公泰(槐南) 五言絶句
もり・きみやす(かいなん)


1863-1911。明治の代表的漢詩人。

森槐南 五言絶句 日本漢文の世界 kambun.jp

[解読]

新鶯出幽谷(韻)
雄飛移喬木(韻)
青年有為士
豈可学雌伏(韻)
(五言絶句。入声屋韻)
立君出自然
共和非天意(韻)
請看北米洲
向帝国主義(韻)
(五言絶句。入声去韻)
槐南書。

[訓読]

新鶯(しんおう)幽谷(ゆうこく)()
雄飛(ゆうひ)して喬木(きょうぼく)(うつ)
青年(せいねん)有為(ゆうい)()
()雌伏(しふく)(まな)()けんや

立君(りっくん)自然(しぜん)()
共和(きょうわ)天意(てんい)(あら)
()北米洲(ほくべいしゅう)()
帝国(ていこく)主義(しゅぎ)(むこ)


槐南(かいなん)(しょ)

[語釈]

新鶯(しんおう)
 初春に美しい声で鳴きだした鶯。

幽谷(ゆうこく)
 静かで暗い谷間。ここでは自国の領地を喩えている。

雄飛(ゆうひ)
 意気盛んに行動すること。帝国主義諸国が自国の領内から飛び出して、次々と植民地を増やしていることを喩えた。

喬木(きょうぼく)
 背の高い樹木。

青年(せいねん)有為(ゆうい)()
 有為の青年。日本国を喩えた。

雌伏(しふく)
 世間から退くこと。雄飛の反対語。当時の国際社会では、ぼやぼやしていると植民地競争に負けてしまうことを喩えたもの。

立君(りっくん)
 君主制のこと。

自然(しぜん)()
 君主制は自然にできた制度であるという意。

共和(きょうわ)
 共和制のこと。

天意(てんい)(あら)
 共和制は天の意思(つまり自然)ではなく、人為的な制度であるとの意。

帝国主義(ていこくしゅぎ)
 国家が植民地を求めて膨張しようとすること。

[訳]

春の鶯が暗い谷から出て、
意気揚々と高い木に飛び移るように、
有為の青年たるもの、
世間から退くことを学んでいてはならない。

君主制は自然にできた制度だが、
共和主義は天の意思にそむくものだ。
アメリカ合衆国を見たまえ。
帝国主義に向かいつつあるではないか。

                   槐南書く。

2009年9月6日公開。2009年9月12日修正。

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