日本漢文の世界

 

英傑の遺墨が語る日本の近代



藤沢 恒(南岳) 長短句
ふじさわ・つね(なんがく)


1842-1920。漢学者。大阪で伯園書院を主催。

藤沢南岳 長短句 日本漢文の世界 kambun.jp

[解読]

家雞任他賤
埜鶩何必貴(韻)
紛紛耳食徒
由来不解味(韻)
長嘆振衣千仭岡
吸尽摂河海山気(韻)
(長短句。去声未韻)
  偶作 香翁

[訓読]

家雞(かけい)任他(さもあらばあれ)(いや)しく
埜鶩(やぶ)(なん)(かなら)ずしも(たっ)とからん
紛紛(ふんぷん)たり耳食(じしょく)()
由来(ゆらい)(あじ)(かい)せず
長嘆(ちょうたん)して(ころも)(ふる)千仭(せんじん)(おか)
()(つく)摂河(せっか)海山(かいざん)()
  偶作(ぐうさく) 香翁(こうおう)

[語釈]

家雞(かけい)
 にわとり。
任他(さもあらばあれ)
 「さもあらばあれ」と訓読し、なりゆきにまかせる意。
埜鶩(やぶ)
 野生のカモ。「家雞」と対比されると、「家雞」(にわとり)を所有している者が、「埜鶩」をほしがるように、自分の持っているものよりも、手に入りにくいもののほうが良く見えること。
紛紛(ふんぷん)
 ごたごたとたくさんある様子。
耳食(じしょく)
 人の話を真に受けること。
由来(ゆらい)
 はじめから。
長嘆(ちょうたん)
 長嘆息。長いため息をついて嘆く。
(ころも)を振(ふる)
 衣類を振ってごみを払う。
千仭(せんじん)
 非常に高いこと。「仭」は高さの単位で、約1.5メートルに当たる。
摂河(せっか)
 摂津の国と河内の国。だいたい現在の大阪府の地域にあたる。
海山(かいざん)
 海と山。
香翁(こうおう)
 藤沢南岳の晩年の別号。

[訳]

家のニワトリを賤しいと思うのは勝手だが、
だからと言って、野生のカモが貴いわけではない。
昔から、耳学問だけで分かった顔をする人は多いが、
そんなことでは、はじめから物事の妙味が分かるわけがない。
高い岡の上で長嘆息して、(俗気で汚れた)衣の塵を払い、
摂津・河内両国の海と山のきれいな空気を吸いつくして(身を清める)。
   たまたまできた詩  香翁

2010年5月1日公開。2010年5月6日修正。

ホーム > 英傑の遺墨が語る日本の近代 > 作品リスト > 藤沢南岳

ホーム > 英傑の遺墨が語る日本の近代 > 作品リスト > 藤沢南岳