近重真澄(物安) 七言絶句
ちかしげ・ますみ(ぶつあん)
1870-1941。京都帝国大学化学研究所所長。
[解読]
貪聴鯨吼和龍吟(韻)
千樹松林碧海潯(韻)
一夜煢然歩弦月
浩懐何処著機心(韻)
(七言絶句。平声侵韻)
三里邨客中作 物安
[訓読]
貪り聴く鯨吼の龍吟に和するを
千樹の松林、碧海の潯
一夜煢然弦月歩む
浩いに懐う、何れの処にか機心を著せん
三里邨客中の作 物安
[語釈]
鯨吼
くじらの鳴き声。
龍吟
龍のうめく声。
潯
ふち。
煢然
ひとりぼっちの様子。
弦月
弓張り月。
機心
たくみに偽る心。機を見て活動しようと思う心。
著す
帰着させる。
[訳]
鯨の鳴き声が龍のうめき声と唱和するのを、貪るように聞き入っている。
千本もあろうかという松林、青く深い海の深みで。
ある夜、弓張り月はひとりぼっちで空を散歩する。
どうやって機会を得たものかと、心の中であれこれ考える。
三里村に宿泊していた時の作 物安
2009年10月12日公開。