近重真澄(物安) 七言絶句
ちかしげ・ますみ(ぶつあん)
1870-1941。京都帝国大学化学研究所所長。
[解読]
愁看百卉未呈妍(韻)
啓蟄江南雪似緜(韻)
勿笑相公信西学
陰陽燮理只帰天(韻)
(七言絶句。平声先韻)
春雪口占 物安真
[訓読]
愁え看る百卉未だ妍を呈せざるを
啓蟄江南雪緜に似たり
笑う勿れ相公西学を信ず
陰陽燮理は只だ天に帰す
春雪口占 物安 真
[語釈]
百卉
もろもろの草や花
妍
美しさ。ここでは草が青青と茂ること。
啓蟄
冬眠していた虫が動き出す初春(3月初旬ころ)。節気の一つ。
江南
中国南部の地方。
相公
総理大臣。ここでは官の方針という意味。
西学
西洋の学問。
陰陽燮理
天地の現象を調和させること。とくに優れた政治を行うことをいう。
[訳]
残念ながら、多くの花はまだ咲き誇ってはいない。
三月初旬の江南地方では、綿のような雪が残っているのだ。
笑っちゃいけない。お上は西洋の科学を絶対視しているのだ。
しかし、すぐれた政治は、(論理ではなく)天命によってこそ為し得るものである。
春の雪を歌う。 物安
2009年10月12日公開。