日本漢文の世界:本の紹介

書名 近古史談全注釈
副題  
シリーズ名  
著者 若林 力(わかばやし つとむ)
出版社 大修館書店
出版年次 平成13年(2001年)
ISBN 9784469232172
定価(税抜) 5,700円
著者の紹介 著者(1935-)は、大修館書店の『漢文名作選』や、明治書院の『研究資料漢文学』の共同執筆者です。
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本の内容:

 本書は、仙台藩の儒学者、大槻磐渓の著書、『近古史談』全編の注釈書です。
 『近古史談』は、織豊、徳川三代時代の武将たちのエピソード集で、実に130ものエピソードを集め、論評を加えたものです。選りすぐりの面白い話が集められており、書かれている漢文もやさしいものであるため、明治以後何種類も注釈書が出版されて、流行しました。漢文入門書としても最適のものです。しかし、今では古本で入手するほかなくなっていました。
 本書の出版により、『近古史談』は、簡単に入手できる、身近な古典になりました。この意義は大きいと思います。実をいえば、当サイトでも『近古史談』の中から数編を紹介することを検討していたのですが、本書が出版されたので、その必要はなくなりました。『近古史談』を読んでみたい方には、本書をお薦めすればよいことになったからです。
 本書は、『近古史談』のエピソード130の全編について、原文・書き下し文・語釈・人物解説・通釈(現代語訳)・原文出典に分かって解説した、オーソドックスな体裁の注釈書です。冒頭に、原著者・大槻磐渓先生の生涯をくわしく紹介した「解題」があり、たいへん参考になります。また、「人物解説」が有るのは、非常に助かります。人名事典のページを繰ることなく、本文を読み進めることができるからです。
 ただ、不満な点もあります。その一つは、「通釈」の訳文が、極端な逐字訳でありすぎることです。一つだけ実例をあげると、本書29ページで、「胆落ち神死して、復た人色無し」を「胆はつぶれ失神して、人の顔色はなくなった」と逐字訳していますが、「人色無し」は「真っ青になった」くらいにしないと、かえって分かりにくいのではないでしょうか。訳文は、全編にわたって、こんな調子なのです。
 もう一つの不満は、原本の冒頭にある磐渓先生の自題の詩と、塩谷宕陰の引(序文)が、本書では割愛されていることです。こういう割愛は、翻刻本の通例ではありますが、私は序文等も書物の一部であり、割愛すべきではないと思います。
 しかし、エピソードそのものの面白さでどんどん読めてしまいますので、ささいな不満は消し飛んでしまいます。『近古史談』は、やはり非常に面白い本です。ぜひ大槻ワールドを楽しんでみてください。
2002年8月31日公開。

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