書名 | 古典注釈入門 |
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副題 | 歴史と技法 |
シリーズ名 | 岩波現代全書 |
著者 | 鈴木健一(すずき けんいち) |
出版社 | 岩波書店 |
出版年次 | 平成26年(2014年) |
ISBN | 9784000291460 |
定価(税抜) | 3,600円 |
著者の紹介 | 著者(1960-)は学習院大学文学部教授。江戸時代の文学が専門。著書に『林羅山』(ミネルヴァ書房)等 |
所蔵図書館サーチ | 古典注釈入門 : 歴史と技法 (岩波現代全書 ; 046) |
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本の内容: 古典を読むには注釈が必要です。注釈とは、古典で使われている言葉の意味や典拠を示し、また作品の解釈を行い、より身近に古典を感じることができるようにするものです。 本書では、わが国で行われてきた古典注釈の歴史をたどり、注釈とはどのようなものかを分かりやすく解説しています。 わが国では古代から、聖徳太子の三経義疏などの仏典の注釈と、日本書記、万葉集等の音釈などの注釈書がありましたが、古典の注釈が飛躍的に発展するのは中世です。 『源氏物語』の注釈書についてみると、室町時代に源氏物語の注釈書として四辻善成の『河海抄』が成立しています。『河海抄』は、準拠論といって、源氏物語に描かれる人物や事件が、すべて史実にもとづいて作られているという考え方が特徴的です。たとえば、光源氏の父・桐壷院は醍醐天皇、朱雀院を朱雀天皇、冷泉院を村上天皇とし、光源氏を源高明としている、という類です。(本書61ページ以下) この百年後に一条兼良(いちじょう・かねら)の『花鳥余情(かちょう・よせい)』という源氏注釈書が成立しますが、こちらは一転してテキストに沿った読解を主とする姿勢で書かれて、有職故実の知識がちりばめられた見事な注釈書でした。(本書67ページ以下) そして、江戸時代に入ると、北村季吟が登場し、有名な『湖月抄』を著作します。これは、現代の注釈書でも受け継がれている、頭注・傍記という形式を確立し、初心者でも本文が読めるような親切な注釈をつけたものでした。(本書121ページ以下) そして、契沖・真淵・宣長ら、国学者が膨大な資料に基づいた精密な注釈を作り上げます。これは、ヨーロッパにおける近代文献学にも匹敵する業績でした。明治初年にドイツ文献学を学んだ芳賀矢一博士は「国学者が従来やってきた事業は、即ち文献学者の事業に外ならない。唯、その方法に於いて改善すべきものがあり、その性質に於いて拡張すべきものがある」(本書169ページ)として、国学の行きすぎた古代重視を是正し、隣接分野への視野を拡張して、近代的文献学を作り上げていきます。 近代的注釈の集大成的成果となったのが、昭和32年に刊行が始まった岩波書店の日本古典文学大系(本書179ページ以下)、昭和41年以降刊行されている角川書店の日本古典評釈全注釈叢書(本書183ページ以下)、昭和45年から刊行された小学館の日本古典文学全集(本書187ページ以下)、昭和51年から刊行された新潮社の新潮日本古典集成でした。 このような代表的な古典注釈全集が出そろい、文庫版でも安価でよい注釈書が手に入る現状は、まことに慶賀すべきものです(本書202ページ)。 著者は注釈に付される現代語訳について、次のように述べています。(本書255ページ) 私は、創作者ではなく、研究者なので、そういう自分の立場からすると、なるべく逐語的に「正確に」――人によって判断基準は異なるにせよ――訳すのがよいと考える。和歌なども、なるべく順序を入れ替えず、そのまま訳すべきだと思う。作品の味わいは頭注などで補足的に説明すればよい。また、作品への感動と注釈との関係については、次のように述べています。(本書269ページ) 注釈が個人の感動を普遍的なそれへと昇華させていく機能を持つに当たっては、実証的な手続きがきちんと取られていることが望ましい。本書は、和文の古典に焦点が絞られており、和文の古典以上に精力的に作られてきた中国古典に対する注釈については、林羅山、荻生徂徠について述べた部分(110ページ以下)や抄物・国字解について述べた部分(249ページ以下)に簡単に触れられる程度に過ぎませんが、それはさておいても、注釈のあり方について日ごろ考えることがある人には、何かしらのヒントを与えてくれます。よき注釈を作り、よき現代語訳を作って、古典学習を活性化していきたいものです。 | |
2017年3月26日公開。 |