日本漢文の世界:本の紹介

書名 本邦における支那学の発達
副題 倉石武四郎講義
シリーズ名  
著者 倉石 武四郎(くらいし・たけしろう)講述
大島晃、河野貴美子、佐藤進、佐藤保、清水信子、戸川芳郎、長尾直茂、町泉寿郎 整理・校注
出版社 汲古書院
出版年次 平成19年(2007年)
ISBN 9784762912160
定価(税抜) 2,000円
著者の紹介 倉石武四郎博士については、『中国古典講話』の紹介を参照してください。

整理・校注者の方方は、二松学舎大学21世紀COEプログラム「日本漢文研究の世界的拠点の構築」の事業推進を担当されている研究者です。
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本の内容:

 本書は、二松学舎大学21世紀COEプログラム「日本漢文研究の世界的拠点の構築」のひとつの事業として整理・出版されたものです。
 倉石博士は、わが国の中国語教育を推進されたことで有名ですが、岡田正之博士の直弟子として、日本漢文学の研究もされたのです。のちに、倉石博士は中国語教育に専念されましたから、博士がかつて日本漢文学をも研究されたことは、ほとんど知られていませんでした。
 本書は、倉石博士が昭和21年度に東京帝大の支那哲学支那文学科において行った「特殊講義」のノートを整理したものです。
著書ではなく、講義の準備ノートですから、原文の引用などはまったくなく、記述も簡単ですが、卓越した視点から要領よくわが国の「支那学」研究史を振り返っているもので、今日でもなお読む価値をもつものです。
 本書の内容は、わが国の「支那学」研究史です。つまり、通常の日本漢文学史が追いかける個個の漢詩文作品にはほとんど目もくれず、わが国における漢文学、そしてそれが発展した形態としての「支那学」の研究がどのように発達してきたか、ということに注意を向けています。
 ですから、ただ名文家として有名だったような作者については、ほとんど名前だけしか紹介されず、逆に「支那学」研究に貢献した人人については、力を入れて顕彰しています。
 本書で特に顕彰されているのは荻生徂徠です。徂徠がはじめた「古文辞学」(昔の学問をするには、昔の言葉を知らなければならないとする主張)、「唐話(中国語会話)の奨励」、「訓読の廃止と唐音による直読」などの主張が、当時としては卓越した見識であったとして、次のように書いておられます。
 すべて徂徠の学問は、支那のものをあるがままに研究し、いささかも増減もない立ち場であるから、従来、外行(わいはん=素人のこと)のやるべきでない如く見られた、法学・兵学をはじめ、種種の方面に手をつけたほか、俗語の如き、従来、学者の歯(し)しなかったものをも引きあげて、学者必須の教養とした点、まったく科学的という外なく、ただあまりにも時代に超えていたため、その没後はやがて俗流に呑まれてしまったこと、惜しむべきであるが、その考えたようなこと<欄外注:自覚せる支那語学のはじまり>は、着着、今の学会で実現していることを見れば、徂徠も瞑すべきであろう。しかし、今日から何でもないようなことでも、之を二百餘年も前に倡導したというのは、たしかに豪傑の士である。(同書58ページ)

 本書は、このように「支那学」の視点からわが国の漢学史を通観し、著者の同時代にまで及んでいます。
 明治以降の近代では、京都支那学と羅振玉ら亡命清国人学者の関係に言及するほか、狩野直喜、内藤湖南ら、著者が直接教えを受けた大学者の学問の方向が的確に要約されています。
 本書には、労作の「補注」があり、ノートだけではよく分からない専門的な知識を細かく解説しています。また、「書名索引」「人名索引」を完備しており、非常に親切な編集になっています。

2007年11月11日公開。

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