漢文では、前述のごとく例外はあるものの、基本的には一つの漢字が一つの詞(単語)です。
それら一字の詞が二つくっついた「二字熟語」や、四つくっついた「四字熟語」がたくさんあるのは、ご存知のとおりです。
「熟語」という語のもともとの意味は、「慣用語」(formula)ということです。「慣用語」であるから、「故事成語」なども当然「熟語」の中に含まれます。
熟語(慣用語)・・・ | 複合詞 |
故事成語 | |
格言 | |
俗諺 | |
歇後語(一種の隠語) |
ここでは、故事成語、格言、諺などはちょっと脇へ置いておき、「熟語」と呼ばれるもののうち、文法上の複合詞(compounds)について、説明します。
「複合詞」は、一般には二字熟語の形をしています。たとえば、「高山」「氷解」などの複合詞を見ていただくと分かるように、二つの詞(字)で一語とみてよいくらい、一体化しています。ですから、漢和辞典などでは、これらの複合詞は一語とみなして、項目を立てて解説しています。
漢文にはこのような二字の複合詞が極めて多いため、白文(句読点や訓点を打っていない文)で、意味が取れないときは、まず二字の複合詞(熟語)を探してみるといいといわれます(一海知義『論語語論』、藤原書店、37ページを参照)。
複合詞は、二つの詞の結合の仕方によって、junction(組合式=そごうしき)とnexus(連系式)の二つに分類されます。これはもともとデンマークの言語学者イェスペルセン(Otto Jespersen 1860-1943)が英語の詞組(word groups)に関して考え出した分類法です。※
※『文法の原理』(原題『The Philosophy of Grammar』)、原書96ページ、岩波文庫版では上巻233ページの三品説(The Tree Ranks)を説いた部分以下。「組合式」、「連系式」の訳語は中国語訳『語法哲学』(何勇 等共訳、中国:語文出版社)によりました。岩波文庫版ではjunctionを「連接」、nexusを「ネクサス」としています。
junction(ジャンクション=組合式)というのは、中心となる語(首品=primary)に対して、修飾する語(修品=adjunct)がくっついてできる形式です。
「高山」という複合詞を例にとりますと、この複合詞の中心詞(首品=primary)は「山」です。「山」はどういう山かというと「高」い山である。つまり、「高」が修品(adjunct)として山を修飾しているのです。
修品 | 修飾 | 首品(中心詞) |
(adjunct) | → | (primary) |
高 | → | 山 |
一方、nexus(ネクサス=連系式)というのは、結びついている二つの語が主語と謂語の関係になっているものです。この場合は、主語が「首品」(primary)となるのに対し、謂語は主語を修飾する「述品」(adnex)と呼ばれます。
たとえば、「氷解」という複合詞を例にしますと、「氷」が主語、「解ける」が謂語(述語)という関係になっています。これがネクサスです。
主語 | 謂語 |
首品(中心詞) | 述品 |
(primary) | (adnex) |
氷 | 解 |
2007年7月16日公開。