日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第2節 詞と短語




(1)詞(単語)について

 漢文の句の構成要素である「単語」(word)について最小限の解説をします。

 漢文法では「単語」のことを「詞」(し cí)と呼びます。実は、「詞」と呼ぶようになったのは最近のことで、昔は「字」(じ zì)と呼んでいました。つまり、漢文の単語は「漢字」と同じだと思われていたのです。

 たしかに、「魚」という字は「さかな」という意味と「ギョ(yú)」という音を表していますから、「魚」の字は立派に単語(詞)といえます。しかし、字と詞は一致しないこともあります。

 たとえば、「葡萄」(ぶどう pútao)という言葉は、「葡」「萄」の二字に分けてしまうと、全く意味をなしません。「葡萄」の二文字で「ぶどう」という意味を表す詞(単語)になります。「葡萄」はもともと外来語の音を漢字でなぞった語なのです。この種のものには、ほかに「瑠璃」(るり líuli)とか「琵琶」(びわ pípa)などがあります。近代のことばですが、「珈琲」(コーヒー kāfēi)などもこれにあたります。

 また、「洋洋」(ようよう yángyáng)とか「堂堂」(どうどう tángtáng)など同じ字を重ねた「畳音」の語や、「逍遥」(しょうよう xiāoyáo)、「混沌」(こんとん hùndùn)など同じ韻を重ねた「畳韻」の語、「蜘蛛」(ちちゅ=クモ zhīzhū)とか「憔悴」(しょうすい qiáocuì)など同じ頭子音の字を重ねた「双声」の語も、二字に分解すると意味をなさないので、二字でひとつの詞であると考えるしかありません。

 これらとは性質がちがいますが、「全然」、「突然」、「忽焉」など接尾辞をもつ語や「君子」などの語も、分解してしまうと全く別の意味になりますから、複数の字からなる一つの詞(単語)と見るべきです。



2007年7月16日公開。2009年6月16日一部修正。

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