日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第五章 読解のための漢文法入門

第一節 漢文法へのいざない




(3)漢文の基本句式

 ここからは、少しだけ専門用語が出てきます。しかし、あまり難しく考える必要はありません。だいたいの意味が分かればよいと考えてください。

 ここで使用している専門用語は、現代中国の文法家が使用しているものをそのまま使っているので、すこし違和感があるかもしれません。しかし、知っておけば、のちのち役に立つはずです。

 漢文法では文(sentence)のことを「句」(く jù)または「句子」(jùzi)と呼びます。そして、構文(sentence-structure)のことを「句式」(くしき jùshì)と呼んでいます。

 漢文を読解するには、この「句式」を理解することがなによりも大切です。

 江戸時代の人人は、素読を繰り返す中に、自然と漢文の句式を理解していました。しかし、現代の私たちは、大量の漢文を読むことができないので、意識的に句式を覚えなければなりません。

 漢文では、一つの句(sentence)は主部(subject)と述部(predicate)から成り立つのが原則です。

主部(subject) 述部(predicate)
天地 長久

 「主部」のことは漢文法では「主語」(しゅご zhŭyŭ)、「述部」のことは「謂語」(いご wèiyŭ)と呼びます。

 「謂語」の中心となる詞を「謂詞」と呼びます。謂詞は動詞、形容詞のほか名詞であることもあります。上の例句をもういちど見てみましょう。

【例句1】

天地長久。

(訓読)天地(てんち)長久(ちようきゆう)なり。

(現代語訳)天地は永遠である。

 この句では、主語「天地」は名詞、謂語「長久」は形容詞です。この句は、修辞上、次のように分解されることがあります。(一般に「互文」といっているもの)。

【例句2】

天長。地久。(『老子』第7章)

(訓読)(てん)(なが)、地()(ひさ)し。

(現代語訳)天も地も永遠である。

(1)久。
    ╳
(2)長。久。

 (1)と(2)とは同じ意味で、(2)の場合でも訓読は一つの句のように読みますが、文法的に見るならば、(2)は独立した二つの句なのです。つまり、句(sentence)は、意味のつながりではなく、主部(主語)と述部(謂語)が存在しているか否かで決定されるのです。

主語(主部) 謂語(述部)

主語(主部) 謂語(述部)


2007年7月16日公開。

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