「漢文」と聞くと、多くの方が「ああ、あの漢字ばかりの古文のことか」と思われるでしょう。高校で古典の時間に習いましたね。
「漢文」というのは、一体何でしょうか?
漢文は、古代中国で発達した文語文です。つまり、もともとは中国語です。漢字ばかり並べれば漢文になるのではなく、古代中国語の文法にのっとって漢字を並べなければ漢文にはなりません。
漢文は中国語ではありますが、現代文ではなく古文です。そして話し言葉ではなく書き言葉です。
漢字は画数が多くて書くのに時間がかかりますから、古くから簡略な書き言葉が発達していました(吉川幸次郎著『漢文の話』、ちくま文庫、55ページ)。ですから、「漢文」は古代中国で確立した書き言葉であり、当時の話し言葉とも異なるわけです。
「漢文」と いうのは日本での呼び名で、中国では、昔の文章という意味の「古文」、または、文語の文章という意味の「文言文」と呼ばれています。
古代においては、中国の文化は、他の東アジア諸国に比べて圧倒的に高度なものでしたから、「漢文」は東アジアの共通語として、わが国や韓国、ベトナムなどに広まりました。
わが国では固有の文字がなかったため、漢字を直輸入して自らの文字とし、長い間かかって使いこなしてきました。
そして、漢文も最初は当時の中国語で直読していたものを、「漢文訓読法」によって日本語の語順で読み下すようになりました。
「漢文訓読法」により、漢文は外国語文ではなく日本語文として読めるようになったため、日本人は漢文を外国語とはみなさず、自国の古典の一部だと思っています。
そういうわけで、現在でも高校の国語の時間に「古典」の一部として習うのです。
わが国では古代から近代までの長い間、漢文が中心的な教養であり続け、ことに江戸時代には漢詩文を作ることが知識人の必須条件でした。
日本人の作った漢文(=日本漢文)は、国文学の一分野ではありますが、日本の漢学者たちは、できるだけ本式の漢文を綴ろうとして努力を重ねましたから、日本漢文の作品にも、東アジアにおけるインターナショナルな文学として通用する傑作がたくさんあります。
このように、「漢文」には中国だけのものではなく、わが国、韓国、ベトナムなどにもすぐれた作品が存在しています。最近、本家の中国・台湾の研究者も、これら周辺国の漢文学に注目するようになってきました。わが国でも、もっと自国の国文学としての漢文学(=日本漢文)に注目するべきだと思います。
2004年11月3日公開。