日本漢文の世界:本の紹介

書名 日本漢学研究初探
副題  
シリーズ名  
著者 楊儒賓・張寶三 共編
出版社 勉誠出版
出版年次 平成14年(2002年)
ISBN 9784585030928
定価(税抜) 9,600円
著者の紹介 楊儒賓氏は、台湾清華大学中国文学系教授。張寶三氏は、台湾大学中国文学系教授。
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本の内容:

 本書は、2001年に台湾大学中文系・台湾清華大学中文系・漢学研究センターが共同開催した「日本漢学国際学術研討会」における発表を、各研究者が訂正加筆した論文集です。本書は、その日本語版ですが、中国語版は台湾の喜瑪拉雅から出版されています。
 本書の題名にある「初探」とは、わが国では「序説」といっているもので、研究方法の指南書といった意味合いです。
 本書の執筆者は、17名ですが、その内訳は、台湾が7名、日本が6名、中国が2名、韓国とデンマークが1名ずつとなっています。
 本書であつかう日本漢学とは、第一に日本で土着化し、独自の発展をとげた漢学のことであり、第二には日本人による中国研究のことです(「公刊にあたって」)。本書の刊行は、それらを対象とする研究が、国際的に広がりつつあることを感じさせます。
 本書の内容を簡単に紹介しておきます。
 第一部は「序論」で、鄭清茂氏が「日本の漢学が華人に与えたもの」という題で書かれています。これは短い文章ですが、基本的な文献が簡潔に紹介されているので、参考になります。
 第二部は、「儒学思想の受容」と題されていますが、荻生徂徠を扱う一篇のほかは、近代におけるわが国の中国研究に関する論考です。中でも「近代日本における孔子教論者の天命説について」という陳瑋芬氏の論文には興味を惹かれました。これは、服部宇之吉・塩谷温ら、東京帝國大学の漢学者たちが、雑誌『斯文(しぶん)』を中心に展開した「国体論」に焦点を合わせたものです。はじめは孔子教の天命説から出発しながら、なにゆえにそれは国体論、皇道論へと発展し、戦争に協力するにいたったのか。非常に興味ある問題です。
 第三部は、「中国文学の反映」。古代および中世における漢文学の受容を論じます。
 第四部は、「東アジア文化交流史」。日本と韓国の漢文学史を比較して論じた沈慶昊氏の「日本漢文学の歴史的展開に関する一考察」は、一般にはあまり知られない韓国の漢文学史にも言及があり、参考になります。また、内藤湖南・青木正児・吉川幸次郎・宇野哲人の四人の漢学者たちが見た近代中国を論ずる黄俊傑氏の「二十世紀初頭の日本人漢学者の目に映った文化の中国と現実の中国」は、視点が面白いです。Margaret Mehl氏の「明治時代の教育における漢学塾の役割」は、比較的資料の残っている二松学舎(現二松学舎大学)など三つの漢学塾について、その実態を紹介したものです。明治の漢学塾についての研究はあまりないので、貴重です。
2005年3月27日公開。

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