日本漢文の世界:本の紹介

書名 先生のための漢文Q&A102
副題  
シリーズ名  
著者 山本 史也(やまもと ふみや)
出版社 右文書院
出版年次 平成11年(1999年)旧版
平成29年(2017年)新版
ISBN 9784842198132(旧版)
9784842107851(新版)
定価(税抜) 2,700円
著者の紹介 立命館大学において白川静先生の教えを受ける。土佐女子高等学校および大阪府立島上高等学校、交野高等学校、長尾高等学校で漢文を教授。2005年、白川漢字学の入門書『神様がくれた漢字たち』(理論社)を上梓。
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本の内容:

 本書は、高等学校で漢文を教授している国語の先生方の質問に答えるという形式で書かれています。「はしがき」から察するに、これらの質問は、想定質問ではなく、実際に現場から出てきた質問であるようです。
 質問の数は、書名のとおり102あり、語義に関するものが17、成語に関するものが6、語法に関するものが30、句法に関するものが9、文法に関するものが5、訓読に関するものが11、文字に関するものが2、音韻に関するものが3、文学・思想・歴史に関するものが16、教材に関するものが1という具合に分類されています。
 それぞれの質問を読んでいると、さすがに高校の教室で漢文を教えておられる先生方が疑問に思われただけのことはあって、的を射る質問が多いと思いました。質問の部分だけを、すこしだけ紹介しましょう。
Q36:「つひに」について 「つひに」がかならずしも「とうとう」と解釈できない場面にあうことがあります。どんな意味があるのですか、また「つひに」と訓む字と、それぞれの意味を紹介、説明してください。

Q37:「頗」について 「頗(すこぶる)」は、「かなり」あるいは「はなはだ」の意ではないかと思いますが、その訳を「少し」とする例が多いようです。どちらが正しいのでしょうか。説明してください。
 これらは、訓読で漢字に当てられる訳語と現代日本語の語感のズレに関するものです。
Q57:「使役」について 「使役」の語、「使」「教」「令」「遣」それぞれに微妙なニュアンスの違いを覚えるのですが、それをことばで表現できないじれったさが残ります。解消してください。
 これは、訓読ではすべて「・・・しむ」と読まれてしまうので、もとの字のニュアンスが分からなくなっている例です。
Q65:品詞について 漢文にも、日本語と同じように品詞という概念はあるのでしょうか、参考書には、名詞、動詞、副詞などの語が出てきますが、日本語におけるそれらと混同しないようにするためにも、説明してください。
 日本の漢文入門書や漢和辞典では「品詞」の概念が無視されているのを、私も非常に不満に思っていました。高校の先生からこういう質問が出てくるのは当然です。
 こうした質問に、著者は真摯な回答をしています。検証のために引用する書物の幅の広さにも驚きます。中国古典や、その古注はもちろん、日本の「古辞書」や江戸時代の儒者の書いた助字解説書、現代中国の文法書にいたるまで、実によく研究しておられます。それゆえに、各質問に対する回答は、いずれも妥当で納得のゆくものになっています。
 この本は、教師の方方だけではなく、漢文に興味をもつ方であればどなたでも、たいへん興味深く読めるものです。
2005年3月27日公開。2019年10月19日一部修正。

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