書名 | 明治の翻訳王 伝記 森田思軒 |
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副題 | |
シリーズ名 | |
著者 | 谷口 靖彦(たにぐち・やすひこ) |
出版社 | 山陽新聞社 |
出版年次 | 平成12年(2000年) |
ISBN | 9784881976821 |
定価(税抜) | 1500円 |
著者の紹介 | 著者(1930-)は、元岡山県笠岡市職員。森田思軒研究者。本書あとがきによると、昭和54年に作家の野田宇太郎が「思軒の故郷」という一文を執筆するための取材に笠岡市を訪れた際、著者が市職員として応対したが、思軒に関する資料がほとんどないことに困りました。野田氏は、著者に対して、思軒研究の必要性を説き、自ら研究するように勧めたとのことです。それ以来、著者は思軒研究に志し、その成果が本書に結実したのです。 |
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本の内容: 森田思軒(もりた・しけん)について知る人は今日では少ないかもしれません。しかし、戦前にはヴェルヌの『十五少年』(岩波文庫)の名訳者としてその名を知らぬ者はなく、生前には「翻訳王」として一世を風靡した、時代の寵児でした。明治30年(1897年)に36歳の若さで世を去ることなく、長生きしていたならば、森鴎外と並ぶ明治の大翻訳家・大評論家として、今日まで名声を保っていたであろうと惜しまれます。 森田思軒は深い漢学の造詣を生かし、「思軒調」とか「周密訳」といわれる漢文訓読調を基調とする緻密な翻訳文体を作り出し、それまで粗雑な翻訳が横行していた海外文学の翻訳に画期的な転換をもたらしました。翻訳にあたっては、原文の一字一句をもゆるがせにせず、もっとも適切な訳を求めて苦吟しました。 本書は、森田思軒の本格的伝記としては初めてのものです。思軒の出生から、幼時、青年期の勉学、慶応義塾時代の恩師・矢野龍渓の招きで上京し、矢野が経営する「郵便報知新聞」に入社、以後つぎつぎと翻訳ものを新聞紙上に発表し、「翻訳王」として名声をかちえてゆく様子。世間から「根岸派」といわれた文学者グループの盛んな交友や贅沢な生活の様子。年齢40に達したら、ユゴーの『レ・ミゼラブル』を『哀史』の題で翻訳したいと熱願していたが、36歳で急死したために果たせなかったこと。思軒の生涯の事跡が、現存する資料をもとに、ていねいにたどられており、著者の長年にわたる研究の深さが滲み出た好著となっています。 思軒の翻訳といえば、漢文訓読調のものと思っていたのですが、初期のころは試行錯誤していたことや、晩年には口語訳を試みていたことを、本書により初めて知りました。思軒の亡くなった明治30年ころには、彼の親友であった森鷗外もまだ文語で翻訳をしていたのです。 しかし、明治という時代は社会の進展が早く、思軒の没後10年目に企画された『思軒全集』全5巻は、最初の1巻を出しただけで中絶してしまいました。その後、資料が散逸したために彼の文学の全容解明は、今となってはすこぶる困難な状況となっています。 最近、森田思軒を見直す動きがあります。『明治翻訳文学全集』(大空社、1997年~)により思軒の翻訳のほぼすべてが読めるようになり、2000年には本書が登場。2002年には岩波書店の『日本古典文学大系明治編15翻訳小説集』に思軒訳の『探偵ユーベル』(ユーゴ原著)が入り、2005年には思軒の直系子孫である白石家の資料をもとに『森田思軒とその交友』(松柏社)という図録が出版されています。 本書は、こうした思軒再評価の動きの中で出版され、思軒の再評価を促進することになりました。執筆態度はきわめて穏健・誠実で、一般人にも分かりやすいように、文体を示す必要のある場合以外は文献を現代語訳して引用するなど、こまかい配慮が行き届いています。森田思軒を知るには、本書がもっともよい入門書です。 | |
2007年11月11日公開。 |