日本漢文の世界:本の紹介

書名 漱石の夏休み
副題 房総紀行『木屑録』
シリーズ名  
著者 高島 俊男(たかしま としお)
出版社 朔北社・筑摩書房
出版年次 朔北社版:平成12年(2000年)
ちくま文庫版:平成19年(2007年)
ISBN 朔北社版:4-931284-48-5
ちくま文庫版:4-48042-343-5
定価 2,000円
著者の紹介  著者(1937-)は、前野直彬博士の弟子で、大学教員を辞職後、フリーで活躍されています。
 多くの著書がありますが、最高傑作は『水滸伝と日本人』(大修館書店)です。これは、江戸時代以後の昭和までの日本人が水滸伝といかに取り組んできたかを実に念入りに調査したものです。
本の内容:



 夏目漱石が学生時代の夏休み、房総半島へ旅行したときのことを綴った漢文作品『木屑録(ぼくせつろく)』を支那語(著者は中国語のことをこう呼びます)作品として鑑賞し、訳しています。これまで漢文作品であるため、あまり読まれなかった『木屑録』ですが、軽妙な訳文で原文のおどけた気分がうまく再現されています。『木屑録』は、漱石が親友正岡子規に作文の腕を自慢するために作った文章なので、文中に諧謔がたくさんあるのです。
 冒頭部分をすこしだけ引用します。

(高島氏の訳文) 我輩ガキの時分より、唐宋二朝の傑作名篇、よみならつたる数千言、文章つくるをもつともこのんだ。精魂かたむけねりにねり、十日もかけたる苦心の作あり。時にまた、心にうかびし名文句、そのままほれぼれ瀟洒のできばえ。むかしの大家もおそるるにたりんや、お茶の子さいさいあさめしまへ、これはいつちよう文章で、身を立てるべしと心にきめた。


(原文) 余兒時、誦唐宋數千言、喜作爲文章。或極意彫琢、經旬而始成。或咄嗟衝口、而發自覺澹然有樸氣。竊謂古作者、豈難臻哉。遂有意于以文立身。

 本の後半では、漢文訓読を否定し、支那文を読むには支那語で直読すべきだ、との著者の持論が展開されています。訓読の歴史をくわしく調べているのは感心します。
 最終章の「木屑録をよむ」では、『木屑録』の添削を試みています。対句や語調の上から、こう直したほうがよい、と具体的に直していきます。この部分は、なかなか面白く、参考になります。
 巻末に漱石の『木屑録』自筆稿本の写真版と、活字版(白文)が附録としてついています。ただし、書き下し文は、(著者の主張からすると当然ながら)ありません。書き下し文を見たい方は、新・漱石全集(岩波書店)をひもとくとよいでしょう。
 本書は、第52回読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞しました。書きぶりが面白いからでしょう。本書がきっかけになって、『木屑録』読者が増えれば、うれしいことです。


2001年10月8日公開。

ホーム > 本の紹介 > 漱石の夏休み(高島俊男著)

ホーム > 本の紹介 > 漱石の夏休み(高島俊男著)