日本漢文の世界:本の紹介

書名 松崎慊堂
副題 その生涯と彼をめぐる人びと
シリーズ名 研文選書85
著者 鈴木 瑞枝(すずき みづえ)
出版社 研文出版
出版年次 平成14年(2002年)
ISBN 4-87636-209-2
定価 3,300円
著者の紹介 著者(1927-)は、高校教師の傍ら、漢詩人・漢学者・日本教育史を研究してこられた方です。あとがきによれば、はじめ漢詩人・館柳湾について調べるうちに、その傍らの松崎慊堂の存在に気づき、調べはじめてからすでに四半世紀ということですから、本書はまさに著者のライフワークです。
本の内容:

松崎慊堂(研文選書)

 松崎慊堂(まつざき・こうどう)は、狩谷棭斎・山梨稲川らと『説文解字』を研究したことや、当時経書の最古のテキストとされていた唐の『開成石経』を復刻したことで知られています。また、安井息軒、塩谷宕陰らすぐれた学者を育てた教育者でもあります。この人の生涯は波乱万丈で、とうてい学問的業績だけでは語りきれません。しかし、本書が出るまで、伝記らしい伝記がありませんでした。
 慊堂の父親は、伊勢あたりから熊本へ来た流れ者で、貧農の母と野合して慊堂が生まれました。慊堂は、幼時から寺に預けられましたが、坊主になるのが嫌で出奔し、江戸へ出ます。そこで得がたき庇護者・師匠と出会い、佐藤一斎という生涯の学友にも出会います。しかし幸運は続かず、友人が借金のかたに昌平黌の所蔵書籍を質入れした事件に連座して追放となり、同時に内定していた熊本藩への出仕も棒に振ってしまいます。それでも花柳界への出入りをやめられず、窮乏を救ってくれた芸者と結婚したら、その妻はとんでもない吝嗇もちで、生まれた息子もドラ息子。ついに、耐えかねて郊外に別宅を作って別居。妾を囲って、息子をもうけたら、その子は凡庸で若死に。そのようなスキャンダルが容赦なく暴かれます。
 しかしその一方、慊堂先生は情に厚く、弟子の渡辺崋山が下獄したとき、身の危険をも顧みず、赦免を求めて東奔西走します。同じく崋山の師匠であった佐藤一斎がまったく動こうとしなかったのとは対照的です。
 本書は、膨大な『慊堂全集』や『慊堂日暦』を精読し、松崎慊堂の人間的魅力を描き出そうとした力作です。しかし、慊堂先生が学者として成功してからの後半生における主要な関連人物を、第5章「慊堂周辺の人びと」として、第4章までの編年体の部分と別にしたため、編年体の部分と比べて精彩を欠くものになってしまったのが残念です。全編を編年体としたほうが、歴史小説のように読めて、よかったのではないかという気がします。

松崎慊堂(研文選書)
2003年7月20日公開。

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