日本漢文の世界:本の紹介

書名 訓読論
続訓読論
(ここでは上記の2冊の本を同時に紹介しています。)
副題 正:東アジア漢文世界と日本語
続:東アジア漢文世界の形成
シリーズ名
著者 中村 春作(なかむら しゅんさく)他
出版社 勉誠出版
出版年次 平成20年(2008年)
平成22年(2010年)
ISBN 正4-58503-184-7
続4-58528-001-4
定価 正4,800円
続6,000円
著者の紹介 多数の著者による共著。
本の内容:

「訓読」論 東アジア漢文世界と日本語

続「訓読」論 東アジア漢文世界の形成

 漢文は、日本漢文であれシナ漢文であれ、「訓読」で読むのがわが国での長い間の習慣でした。しかし、しだいに漢文自体が読まれなくなり、漢文も中国文学の一部(古代漢語)として中国語で学習されるようになってきたため、このままでは漢文訓読は滅びてしまうかもしれません。
 そのような危機感のためか、漢文訓読についての論考が最近相次いで出版されています。本書もその一つです。
 本書は、多くの著作者が雑多な内容について、様様な視点で執筆しているので、興味のある分野だけを拾い読みしてもよいでしょう。以下、内容を少しだけ紹介します。

 正編で私が興味をひかれたものを二つあげます。
 まず、陶徳民氏の『近代における「漢文直読」論の由緒と行方』。明治以後、漢文を訓読ではなく、中国語で直読すべきだと言いだした最初の人は、明治の漢学者・重野成斎でした。彼は洋学の盛行を見て、漢学のレベルも底上げしなければならないと考え、中国語を用いる「正則漢学」に通じた「専門漢学者」の養成のため、清国へ長期留学生を派遣すべきであると主張しました。しかしその実現はならず、その約半世紀後に青木正児、倉石武四郎らの漢文訓読排斥論が出てきます。しかし、青木らの主張は当時の教育界における国語派・漢文派の争いに巻き込まれてしまいます。漢文派は、漢文は日本語で訓読するのだから日本の古典であると主張し、国語派の主張する中学校の教育課程からの漢文の削除に反対していました。そのため、身内から訓読反対論が出ることは許されない雰囲気があったというのです。
 次に、前田勉氏の『漢文訓読体と敬語』。明治維新以前は、公用文として候文が用いられていましたが、明治になるとこれに代わって漢文訓読体の文章が公用文の文体となり、これが「普通文」として一般に普及します。候文は、「候」という語を除けばほとんど言文一致体ですが、漢文訓読体は純然たる文語体です。また、候文では、現実の身分関係を反映して、煩瑣な敬語表現が発達していますが、漢文訓読体の文章には敬語はほとんどありません。身分制度の桎梏から解放されたいという切実な欲求が、当時の人びとに敬語がほとんどない漢文訓読体を積極的に選択させたため、これが一般へ普及するに至ったのです。前田氏は、本書続編にも『明治前期の訓読体ー言路洞開から公議輿論へー』を書いて明治の建白書の文体を検証し、敬語を廃した漢文訓読体の果たした思想的積極性について論じています。

 そして、続編からは、前述の前田氏のもののほかに三つあげておきます。
 中村春作氏の『琉球における「漢文」読みー思想史的読解の試みー』。琉球では、従来日本語の移入が盛んで、沖縄語を記すのにも和文が用いられていました。その後、江戸時代初期に薩摩藩を通じて訓読による漢文が移入され、教養の核になったということです。
 川島優子氏の『白話小説はどう読まれたかー江戸時代の音読、和訳、訓読をめぐってー』では、「玉里本金瓶梅」という江戸時代後期の遠山荷塘らグループの会読ノートをもとに、江戸時代の人たちが訓読も含め、試行錯誤を重ねながら白話小説に取り組んだ様子を紹介しています。水滸伝、金瓶梅等の白話小説は、最初は中国語学習のテキストとしいて用いられ、次いで語句の意味が究明されて和訳が付けられ、さらに文全体の構造の把握がなされて訓点が施されました。当時、古文で書かれた経書等とは全くことなる白話小説に接して興奮した人びとが、熱狂的に読みこんで行った様子がよくわかります。
 木村淳氏による『明治・大正期の漢文教科書』は、明治初年の中学校用漢文教科書には、『博物新編』などの科学教科書の漢文訳が多く採用されていたことなど、興味深い事実を指摘しています。当時、それらの教材は、漢文の実用性を示すとともに、当時盛んに移入されていた西洋科学の知識を用いて、生徒の興味を引く効果を期待されていたのです。漢文訓読が絶滅の危機となるほど廃れてしまった漢文教育を現代に復興させるためにも、魅力的な教材の発掘が欠かせないと思われます。

「訓読」論 東アジア漢文世界と日本語

続「訓読」論 東アジア漢文世界の形成
2014年11月15日公開。

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