日本漢文の世界:本の紹介

書名 日本書紀の謎を解く
副題 述作者は誰か
シリーズ名 中公新書1502
著者 森 博達(もり ひろみち)
出版社 中央公論新社
出版年次 平成11年(1999年)
ISBN 9784121015020
定価(税抜) 780円
著者の紹介 古代音韻学、中国語学を専門とする研究者で、京都産業大学教授。ほかに『古代の音韻と日本書紀の成立』(大修館書店)の著があります。中国語学(音韻学・語法論)の該博な知識を生かして、古代史の分野でさまざまな発言をしておられます。たとえば、耶馬台国の卑弥呼が魏帝からもらったとされてきた三角縁神獣鏡は、銘文からみると明らかに国産である(毎日新聞2000年9月12日文化欄)等等。本書は、著者入魂の代表作です。
所蔵図書館サーチ 日本書紀の謎を解く : 述作者は誰か (中公新書)
Amazonへのリンク 日本書紀の謎を解く―述作者は誰か (中公新書)
本の内容:

 文献研究の一つの理想的なモデルというべき名著です。
 著者は最初、日本書紀の歌謡を表記した漢字を分類していて、万葉仮名として使用されている漢字は、漢字の原音(当時の中国北方音)によって当時の和語を表記しているのではないか、と考えます。ところが、明らかに漢字原音ではない、当時の和音によると思われる万葉仮名も混在していました。さらに調べていくと、日本書紀は、万葉仮名が漢字原音とよく一致するα群と、まったく一致しないβ群に截然と区分されることが分かりました。そして、α群では、歌謡以外の本文も正格の漢文であるのに、β群では本文に多くの和習があることが分かってきました。ここから、α群は中国からの帰化人が述作したものであり、β群はそれを日本人が書き継いだ部分であることを論証していきます。論証の過程は、精密でドラマチックです。とくに日本書紀全編から和習部分を抜き出し検討を加えている部分は圧巻です。読んでいて感動を覚えます。
 本書のもとになった、「日本書紀α群原音依拠説」は、はじめ著者によって1977年に発表され、以後敷衍して、『古代の音韻と日本書紀の成立』(大修館書店)にまとめられました。しかし、これは学術書であり、また漢字の音韻の問題のみを扱っていました。本書は、この論文で解明された音韻論の内容を、誰にでも分かる言葉で書き直したばかりでなく、日本書紀の文章の特質や、編集者の推定にまで説き及んでいます。学者の使命は真理の究明と、知識の普及にありますが、本書はその両方を十分に果たしています。
 本書の最後にいたって、著者は高らかに宣言します。
 「日本書紀」成立の謎は、本書によって解明された。
 さらに、あとがきにはこうあります。
 私はこの本を書くために生まれてきた。
 著者の自信のほどを示していますが、これらの言葉が、決して空しくは響かないだけの内容を、この本はもっております。

2001年10月8日公開

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