日本漢文の世界:本の紹介

書名 変体漢文
副題  
シリーズ名 国語学叢書11
著者 岸 明(みねぎし あきら)
出版社 東京堂出版
出版年次 昭和61年(1986年)
ISBN  
定価 2,500円(絶版)
著者の紹介 著者(1935-)は、おもに平安時代や鎌倉時代の古記録を研究されている方です。横浜国立大学教授。
本の内容:

変体漢文 (国語学叢書, 11)

 「日本漢文」には、中国の漢文の語彙や文法に則った「純漢文」の作品と、漢字ばかりで書いてあるけれども実は国語文を綴った「変体漢文」の作品があります。
 当サイトで紹介しているのは「純漢文」作品に限っているのですが、ほんとうに難しいのは実は「純漢文」よりも「変体漢文」のほうです。なぜかというと、「純漢文」は漢和辞典や漢文語法の解説書を参考に読解することができますが、「変体漢文」にはそのような語彙解説書や文法解説書が完備されていないからです。
 本書では日本漢文をおおむね次のように分類しています。(16ページの要約)

 (1)純漢文
 (2)和化漢文(和習を含む漢文)
 (3)変体漢文(漢文様式の国語文)
 (4)真仮名文(万葉仮名)

 (2)から(4)までが広い意味での「変体漢文」になるわけですが、本書では(3)の文体について詳述しています。これは『御堂関白記』などの公家の日記や、『吾妻鏡』などの古記録の文体です。本書第2章では『御堂関白記』を例に、当時の仮名文学作品や古辞書などと対照しつつ変体漢文の訓読方法を推定していきますが、一読すれば分かるとおり、それは決して容易な作業ではありません。
 変体漢文には、漢語ばかりではなく、大和言葉が入り込んできます。たとえば、「かねてより(=あらかじめ)」というのを「従兼」と書きます。「兼」字にはもともと「あらかじめ」という意味はなく、「~をかねる」という訓があることから、「あらかじめ」の意味の国語「かねて」に当てられた当て字なのです。そのほかでは、「だから」という意味の「然間(しかるあひだ)」なども多用されます。こんなのはまだ良いほうで、漢文では被動(受身)を表す「被」(「る・らる」と訓読します)の字を、なんと尊敬の「る・らる」として使ってしまいます。それから語順については、漢文と同じように、動詞の下に目的語を置くのが一応の規則ですが、それさえ和文のような語順になってしまうことも多いのです。つまり、これは全くの和文であって、漢文と呼ぶのは相応しくないのです。
 さて、変体漢文の子孫である「候文(そうろうぶん)」は戦前まで使われていましたが、これですら今日では読める人が少なくなってしまいました。そのような状況下で、こうした平安・鎌倉時代の変体漢文が読めなくなっている実態は、想像以上のものがあるようです。
 本書は実例をたくさん挙げていますが、研究の方向を示すにとどまっており、体系化するには至っていません。変体漢文の文法書を作るうえでの指針を示したことが本書の価値なのですが、いまだにそのような文法書は存在しません。変体漢文を読みこなすことが困難なゆえんです。今後、変体漢文の語彙・語法を体系的にまとめた文法書が出現することを期待しています。
 本書は数少ない変体漢文に関する専門書ですが、現在は絶版となっており、入手はきわめて困難です。図書館でごらんになってください。

変体漢文 (国語学叢書, 11)
2003年11月16日公開。

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