日本漢文へのいざない

 

第一部 日本文化と漢字・漢文

第二章 漢文と中国語




(3)中国語音読の主張1(桓武天皇)

 漢文の読み方に関して、「中国語で音読するのが正当な読み方」だ、という強硬な主張があります。これは「訓読法は廃止せよ」という主張につながってきます。面白いことに、こういう主張は古代から繰り返されてきました。

 平安時代には、桓武天皇(かんむ・てんのう、737-806)が、当時遣唐使がもたらした最新の中国音である「漢音」を用いて漢籍を読むことを奨励されています。延暦11年(792年)閏11月の勅に、次のようにあります。

(原文)勅。明経之徒、不可習吳音。発声誦読、既致訛謬。熟習漢音。

(訓読)(ちよく)す。明経(めいけい)()は、吳音(ごおん)(なろ)(べか)らず。発声(はつせい)誦読(しようどく)(すで)訛謬(かびゆう)(いた)せり。漢音(かんおん)熟習(じゆくしゆう)せよ。

 これは、それまでの古い「吳音」を排斥して、あたらしい「漢音」を普及させることが目的でした。ただ、このころは「訓読」は未発達だったので、これは訓読廃止の命令ではなく、あくまで漢音奨励が目的だったと考えられます。

 しかし「吳音」は当時すでに生活に溶け込んでおり、加えて仏教経典の読誦(どくじゅ)に用いられていたため、結局廃止することはできませんでした。吳音による仏典の読誦は、現在まで命脈を保っております。



2004年11月3日公開。

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