本の内容:
越後の漢学者、藍沢南城先生(1792-1860)は、越後の南条(新潟県柏崎市内にあります)で、私塾「三餘堂」を開いていました。南城先生は、塾生たちが遊びに心を奪われるのを恐れ、休日ごとに彼らを集めて郷里の奇談を語らせ、それを漢文で記録しました。その中から18篇を選んで編んだのが本書の原本『啜茗談柄(茶のみ話)』なのです。
本書の構成は、普通の注釈書とは少し異なっており、現代語訳をいちばん前に置き、次に原文・書き下し文・注釈という順になっています。これら(とくに注釈)は大変な労作ですが、現代語訳もよくこなれた名訳で、現代語訳だけを読んでも、十分面白い読みものになっています。写本しか存在しなかった『啜茗談柄』を、このような読みやすい形にまとめて出版されたことは、まことにすばらしいことです。私も本書によってはじめて南城先生の著作に接することができ、非常に感激しています。
南城先生は『虞初新誌』にならって本書を作りました。内容は、うわばみ、大蜘蛛、大ねずみなどの化け物の話や、竜の話、酒顛童子の話など、志怪物が中心で、『聊斎志異』愛好者のかたがた(最近増えているらしい)は、きっと楽しめると思います。文章も、書きぶりが面白く、親しめます。水滸伝をまねて白話体で書かれた作品まであります。
さて、南城先生は、収集した奇談を事実であると信じていました。それで、中国の古典を引用して、うんざりするほど長い考証を加えたりもします。現代の読者には蛇足としか思えない部分もありますが、これはフォークロア(民間伝承)採集者として、ひとつの態度であると言うこともできます。奇談を事実と考える態度が、本書をより面白いものにしていることは確かです。
2002年8月31日公開。